バイクと私 6 〜覚悟を決めて〜
早朝にシャッターを開け、工場検査コースにあるバイクを外に出して暖機。
マフラーからの水蒸気とカウルに反射する朝日が綺麗だが、乾いたウエスで埃を拭き取るのが日課になってしまったバイク。
振り返れば、出入り口まで満タンの入庫に「今日も残業確定だな」と独り言。
油温も上がり、安定しはじめたアイドリング音に振り返ると、マフラーからは透明の少しガソリンくさい排気ガスが静かに出ている。
バックミラーに映る小刻みな振動で、ブレた画像になった。
車でいっぱいの工場と、自分の気持ちが重なったのだろうか。
また走れると喜ぶ従順な子犬のように待つバイクを見つめながら、いきなり決断した。
「降りるか」
思い出されたのは、筑波サーキットでの事故翌日。
普通なら絶対安静コースだったのに、仕事しなければなかった日は正直辛かった。
しかし、今度は自分の会社。
自分が辛いだけならまだしも、お客様や社員に迷惑がかかる。
そして家族にも…
バイクは素晴らしいパートナーだ。
人生を何十倍にも広げてくれるが、転倒するリスクはゼロではない。
バイクは壊れても直してしまえば元どおりになるが、壊れた体はなかなか戻らない。
元に戻れるくらいの怪我なら良いが、それ以上だったら…
私は器用ではないが、全力投球がモットーである。
一度にたくさんのことはできない。
ましてや、全力を出すのは一つしかできない。
今何をすべきなのか。
転倒して怪我するリスクと、バイクのことを考えたり乗ったりする時間。
バイクに関わる全てのことを封印して、
会社をやることにした。
後継者として。
いや
トップとして。
大好きなバイクを見ながら大きな覚悟をさせてくれるのも、バイクの魅力なのか。
バイクもまた、私の師匠である。
「いつの日かまた乗れるような人になります」と、バイクに誓う。
その時、ヘッドリムが朝日にキラリと輝いたのは、私の想いをバイクが理解してくれたのだと思うことにしている。
完結